大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)5093号 判決 1980年8月29日
原告
神戸樹脂工業株式会社
被告
ホーメイ商工株式会社
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1申立
(原告)
1 被告は別紙目録記載の弧状彎曲部分を持つた管継手の製造装置を使用してはならない。
2 被告は原告に対し金1500万円およびこれに対する昭和52年9月30日から支払ずみに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
(被告)
主文第1、2項同旨の判決。
第2原告の請求原因
1 原告は左記特許権(本件特許権)の権利者である。
名称 弧状彎曲部分を持つた管継手の製造装置
出願日 昭和39年7月13日(特願昭39-39497)
公告日 昭和43年10月14日(特公昭43-23781)
登録日 昭和49年3月22日(第723199号)
特許請求の範囲
1 所要の管継手の外面形状に一致した内面を有する外型と、上記管継手の彎曲部分の内面形状に一致した外面を持ち上記外型内へ挿入される彎曲部内型と、該彎曲部分に連続するこれより大径の接続部分の内面形状に一致した外面を持ち上記外型内へ上記彎曲部内型に隣接して挿入される接続部内型と、上記管継手の残余部分の内面形状に一致した外面を持ち上記外型内へ挿入される残余の内型と、上記接続部内型をモールドされた管継手から該内型の中心線方向の直線運動によつて離脱させる接続部内型引き抜き手段と、上記彎曲部内型をその彎曲の中心の周囲の旋回運動によつて上記モールドされた管継手の彎曲部分から上記接続部内型の退去した空間へ向かつて離脱させる彎曲部内型引き抜き手段とを有する弧状彎曲部分を持つた管継手の製造装置。
2 本件特許発明の構成要件およびその目的とする作用効果は次のとおりである。すなわち
(1) 本件特許発明は弧状の彎曲部分を持つた管継手の製造装置に関するものであつて、その構成要件は、
(1) 所要の管継手の外面形状と一致した内面を有する外型と、
(2) 上記管継手の彎曲部分の内面形状に一致した外面を持ち上記外型内へ挿入される彎曲部内型と、
(3) 上記管継手の彎曲部分に連続するこれより大径の接続部分の内面形状に一致した外面を持ち上記外型内へ上記彎曲部内型に隣接して挿入される接続部内型と、
(4) 上記の管継手の残余部分の内面形状に一致した外面を持ち上記外型内へ挿入される残余の内型と、
(5) 上記接続部内型をモールドされた管継手から該内型の中心線方向の直線運動によつて離脱させる接続部内型引き抜き手段と、
(6) 上記彎曲部内型をその彎曲の中心の周囲の旋回運動によつて上記モールドされた管継手の彎曲部分から上記接続部内型の退去した空間へ向かつて離脱させる彎曲部内型引き抜き手段と
(7) を有する弧状彎曲部分を持つた管継手の製造装置と分説されるものである。
(2) しかして、本件特許発明の特徴は、従来の管継手製造装置においては一体に形成されていた枝管(彎曲部分)の内型を彎曲部内型(上記(2))とこれより大径の接続部内型(上記(3))の2つに分割し管継手が成形された後まず上記接続部内型を引き抜き次いで上記彎曲部内型を管継手から離脱させることにあり、本件特許発明はかかる構成をとることによつて従来必要とされていた成形後の管継手の接続部に対する切削加工を不要とし、品質の一定した管継手を安価に量産できるようにする効果を有するものである。
3 被告は昭和43年10月頃から別紙目録記載の弧状彎曲部分を持つた管継手の製造装置(以下、イ号装置という)を使用して業として弧状彎曲部分を持つた管継手を製造販売している。
4 イ号装置は次のような構成および作用効果を有している。
(1) イ号装置は弧状彎曲部分をもつた樹脂製管継手の製造装置であつて、その構成は、
(1)' 管継手の外面形状に一致した内面を有し、割型構造にした固定外型11aおよび移動外型11b
(2)' 管継手の彎曲部分15の内面形状に一致した外面を有し、移動外型11bに固定した保持ブロツク30にある傾動自在な支吊軸31にて支吊されている彎曲部内型16
(3)' 管継手の彎曲部分15に連続するこれより大径の接続部分の内面形状に一致した外面を有し、保持ブロツク30に備えたチエーン32にて支吊されるとともに支吊軸31に嵌挿された残余の接続部内型18
(4)' 管継手の彎曲部分15に連続するこれより大径の接続部分の内面形状に一致した外面を有し、互に離反するようにした二個の接続部内型13・14
(5)' 支吊軸31の傾動とともにギヤー34・35が噛合しはじめてチエーン32が引き上げられ、上記チエーン32の引き上げ作用によつて接続部内型18を吊支軸31に沿つて上方へ移行させモールドされた管継手から離脱させる接続部内型18の引き上げ手段
(6)' 樹脂成形された管継手に対向し、シリンダー機構41により作動するパンチ部材42にて彎曲部内型16から管継手をノツクアウトさせる叩き出し手段40
(7)' を有する管継手用の製造装置
と分説される。
(2) しかして、イ号装置は上記の構成を有することによつて本件特許発明にかかる装置と同様、成形後の管継手の接続部に対する切削加工を不要ならしめるという本件特許発明と同一の作用効果を有している。
5 上記構成のイ号装置が本件特許発明の技術的範囲に属することは明らかである。すなわち、イ号装置の構成を本件特許発明の構成要件に照らして対比してみると、イ号装置の(1)'ないし(5)'および(7)'の構成がこれに対応する本件特許発明の(1)ないし(5)および(7)の各構成要件を充足することは明白である。
ただ、(6)'の構成は、彎曲部内型を積極的に旋回運動させて管継手から離脱させるものではなく、逆に、シリンダー機構により作動するパンチ部材で管継手を彎曲部内型からノツクアウトして両者を離脱させる点において、(6)の構成要件と必ずしも技術的に同一ではない。
しかし、これも要するに彎曲部内型と管継手彎曲部を旋回運動により離脱させる構成にほかならず、彎曲部内型と管継手のどちらを積極的に移動させるかは、本件特許にとつては単なる設計上の問題にすぎない。したがつて、(6)'の構成もまた(6)の構成要件を充足している。
イ号装置の作用効果は本件特許発明の作用効果と同一である。
6 したがつて、被告がイ号装置を使用して業として弧状彎曲部分を持つた管継手を製造し販売することは、本件特許権を侵害するものである。
7 被告はイ号装置を使用して業として弧状彎曲部分を持つた管継手を製造販売することが原告の本件特許権を侵害する違法行為であることを知りながらもしくは過失により知らないで、昭和43年10月14日から同51年12月末日までの間にイ号装置を使用して合計3000屯工場渡し価格合計6億円(屯当り20万円)相当の管継手を製造販売し、原告に対し上記販売価格の2.5パーセントの割合による実施料相当額1500万円の損害を与えた。
8 よつて、原告は被告に対しイ号装置使用の差止めと、上記損害金1500万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和52年9月30日から支払いずみに至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第3被告の答弁
1 請求原因の1事実中、原告が本件特許を有しているとの点は不知。その余の事実は認める。
2 請求原因2ないし4の事実は認める。但し、イ号装置はさらに別の効果も有している。
3 請求原因5の事実のうち、イ号装置の(1)'ないし(5)'および(7)'の構成がこれに対応する本件特許発明の(1)ないし(5)および(7)の各構成要件を充足することならびにイ号装置が本件特許発明と同様の効果を有していることは認めるが、イ号装置(6)'の構成が本件特許発明の(6)の構成要件を充足することは否認する。
4 請求原因6の主張は争う。
5 請求原因7の事実のうち、被告がイ号装置を使用して弧状彎曲部分を持つ管継手を製造販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。
第4被告の主張
イ号装置は本件特許発明の技術範囲には属さない。
(1) イ号装置が本件特許発明の前記(6)の構成要件を充足しないものであることは、両者の彎曲部内型の離脱手段を対比してみれば明らかである。すなわち、本件特許発明のそれが彎曲部内型を積極的に旋回運動させることにより管継手の彎曲部分から引き抜き離脱させる「彎曲部引き抜き手段」であるのに対し、イ号装置の離脱手段は彎曲部内型16を静止させたまま管継手自体を叩き出し手段40でノツクアウトさせるものである点において、本件特許発明のそれとは全くその構成を異にしている。すなわち、
(1) 本件特許発明が彎曲部内型を積極的に旋回運動させるものであることは、前記請求の範囲(クレーム)記載の「彎曲部内型を……旋回運動によつて……離脱させる」との文言および本件特許発明の明細書中の発明の詳細な説明と図面に記載されている実施例から明らかである。
これに対し、イ号装置はパンチ部材42にて彎曲部内型16から管継手をノツクアウトして離脱させるものであり、彎曲部内型16は保持ブロツク30にある傾動自在な支吊軸31によつて固定的に支吊されていて左右に移動することはあつても上下に移動することはなく、ましてや旋回運動を起すことは全くない。
(2) また、本件特許発明において彎曲部内型はその彎曲の中心の周囲の旋回運動により離脱するのに対し、イ号装置においてノツクアウトされた管継手は彎曲部内型16より離脱して落下するものであつて旋回運動により離脱するのではない。
(3) さらに、本件特許発明において彎曲部内型は接続部内型の退去した空間へ向つて離脱し上記空間を通過して引き抜かれるものであるのに対し、イ号装置における彎曲部内型16は支吊軸31に固定的に支吊されていて接続部内型の退去した空間を通過することは全くない。
(2) また、イ号装置は、本件特許発明が型開き当初の段階で彎曲部内型を引き抜く(本件特許発明では(1)接続部内型の引き抜き、(2)彎曲部内型の引き抜き、(3)残余の内型の引き抜き、(4)外型の分割の順序で型開きを行い管継手を取出す)のと異なり、彎曲部内型だけが残つている最終段階で管継手自体を叩き出し手段でノツクアウトさせるものであるので、イ号装置の方がノツクアウト時に他の型が存在しないため邪魔にならず作業が行ない易いとともに本件特許発明のような彎曲部内型に対する複雑な引き抜き手段(例えば実施例として述べてある手段)を要さず、シリンダー機構を利用したパンチ部材等単純な叩き出し手段40にて充分その目的を達成することができるという本件特許発明とは別の効果をも有している。
(3) 原告は彎曲部内型と管継手のいずれが移動しようと両者が旋回運動により離脱するものである限りその離脱手段は前記(6)の構成要件を充足するかの如く主張するが、クレームの記載およびイ号装置の具体的な構成を無視した暴論である。
本件特許発明の明細書では彎曲部内型を旋回運動によつて引き抜く手段のみが記載されているにすぎず、それ以外の手段については何ら示唆するところがない。本件特許発明の明細書でいう彎曲部内型の「引き抜き」とは、彎曲部内型を旋回運動によつて管継手の彎曲部分から離脱させ引き抜くものと解釈されるべきであり、それ以外に解釈の仕様がない。
原告は、物体の運動とは元来相対的なものであるとして物理学的な用語の解釈をるゝ主張するが、明細書の「発明の詳細な説明」には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成および効果が開示されることを求められているのであつて、抽象的な物理学上の議論でその記載の意味を解釈し、拡張すべきものではない。
第5原告の反論
(1) 本件特許発明は彎曲部分を持つた管継手の接続部に対する切削加工を必要とせずに同管継手を製造する装置に関するものであり、その手段として管継手の内型を彎曲部分に接続するこれより大径の接続部内型と彎曲部分の内型の2つに分割し(この場合残余の内型は省略して論ずる)、上記接続部内型を管継手接続部に対する直線運動によつて管継手接続部から離脱させ、他方彎曲部内型を管継手彎曲部に対する彎曲の中心の旋回運動により管継手の彎曲部分から離脱させることにより前記切削加工を要する技術的問題を解決しているのである。
(2) そうして、物体の運動は元来相対的なものであり、彎曲部内型と管継手彎曲部とを旋回運動により離脱させるという上記目的から旋回運動を考える場合、前記特許請求の範囲記載の「引き抜き」という文言は相対的な旋回運動による離脱と考えるべきであり、どちらを動かしどちらを静止させるかは、本件特許発明にとつては単に設計上の問題にすぎず、本件特許発明は相対的な旋回運動による離脱一般をその技術的範囲としているものと解すべきである。
(3) また、前記特許請求の範囲においても「該内型の中心線方向の直線運動」あるいは「中心の周囲の旋回運動」といつているように、「方向」あるいは「周囲」の文言を用い相対運動による離脱の軌跡を示す表現を用いている。単に彎曲部内型を旋回運動させるということであれば運動の中心のみを決めれば心然的に定まるのである。それなのに、わざわざ中心の「周囲」の旋回運動の文言を用いていることからみてもクレームにいう彎曲部内型の「引き抜き」とは相対的な旋回運動による離脱を意味すると解すべきである。
(4) もつとも上記特許請求の範囲には「上記彎曲部内型を………上記接続部内型の退去した空間へ向つて離脱させる」との記載があり、彎曲部内型を「退去した空間へ向つて」とあたかも該内型が動くが如き表現があるが、イ号装置のように管継手彎曲部が動くものであつても同彎曲部内型は接続部内型の退去した空間を通過せずしては離脱することは不可能なのであるから、上記「退去した空間へ向つて」の表現は、結局本件特許発明の要部の1つである接続部内型の退去した空間を彎曲部内型が通過して管継手彎曲部分から離脱する現象を彎曲部内型を主体として表現したに過ぎないと理解すべきである。
第6証拠
(原告)
1 甲第1号証を提出。
2 乙第1号証の成立は認める。
(被告)
1 乙第1号証を提出。
2 甲第1号証の成立は認める。
理由
1 請求原因1の事実中、本件特許権の存在については当事者間に争いがなく、原告がその権利者であることは成立につき争いのない甲第1号証(本件特許の特許証、特許公報)により明らかである。
請求原因2(本件特許発明の構成要件が原告主張の如く分説されるものでありその主張の如き効果を有すること)、同3(被告がイ号装置を使用して業として弧状彎曲部分を有する管継手を製造販売していること)、同4(イ号装置の構成が原告主張の如く分説されるものであり本件特許発明と同様の効果を有していること)の各事実についても当事者間に争いがない。
2 そこで、進んで、イ号装置が本件特許発明の技術範囲に属するか否かについて検討する。
1 まず、イ号装置の前記(1)'ないし(5)'および(7)'の構成がこれに対応する本件特許発明の(1)ないし(5)および(7)の各構成要件を充足することは明らかであり、被告においても争わないところである。
2 そこで、残るイ号装置の(6)'の構成を本件特許発明の(6)の構成要件と対比検討する。
(1) 前掲甲第1号証によると、本件特許発明の構成要件(6)は、プラスチツク製管継手を成型した後に、該管継手と彎曲部内型とを離型させる機構(彎曲部内型離型機構)に関する要件にほかならないところ、該クレームの記載からすると、本件特許発明は上記離型機構として「彎曲部内型を……旋回運動によつて……管継手の彎曲部分から……接続部内型の退去した空間へ向かつて離脱させる」という「彎曲部内型引き抜き手段」を採用していることが明らかである。すなわち、本件特許発明は機構学上公知と思われるいくつかのこの種離型機構のうち、管継手(固化成形された目的物)からこれに内接している彎曲部内型を引き抜き離脱させるという方法を基本的手段として採用したうえ、ただ引き抜く内型が彎曲していることからくる技術的要請にこたえて、特に該内型を引き抜く場合のその運動軌跡を彎曲の中心点を中心とした円弧上をたどるよう、すなわち、旋回運動となるよう特段の工夫をこらした引き抜き方法としたものと解される。そして、このような理解が正しいことは、前掲特許公報の発明の詳細な説明欄を通覧しても、彎曲部内型離型機構に関する説明についてかなりのスペースをさいているにもかかわらず((5)の要件すなわち接続部内型離型機構については極めて簡単な説明しかない点参照)、上記のような理解を越えた技術思想は一切示唆されていないことによつても裏付けられる。すなわち、説明欄によると、「先ず、枝管接続部内型18を図において上方へ直線運動をもつて引き抜き、次にこれを図において右方へ移動させながら杆21、22を上方へ引き上げて枝管彎曲部内型16を管継手内から引き抜く。このとき枝管彎曲部内型16は最初に第4図に示すようにその彎曲の中心25の周囲の旋回運動により枝管彎曲部15から脱出して枝管接続部内型18の退去した空間へ向い、次いで垂直に上昇して外型11の外部へ脱出する。」と記載されており(上記公報1頁上欄39行ないし2頁下欄4行)、また、これに続いてその機構の実施例として誘導溝26、27、これに誘導され彎曲部内型を引き上げる杆21、22、突子28、29等専ら彎曲部内型を管継手から旋回運動によつて引き抜くための機構の説明がなされているだけである。
(2) しかるところ、これに対応するイ号装置の(6)'の構成は成型された管継手の方をパンチ部材42でノツクアウトして彎曲部内型16から離脱させるというものであつて、そのさい彎曲部内型16は保持ブロツク30にある傾動自在な支吊軸31によつて固定的に支吊されていて旋回運動を起すことはない。すなわち、イ号装置における彎曲部内型離型機構は「該内型から成型された管継手を叩き出す」というものであつて、このようなイ号装置における機構は本件特許発明の採用した「管継手から該内型を引き抜く」手段とは明らかに別異の技術である。
(3) してみると、イ号装置の(6)'の構成はこの点において本件特許発明の(6)の構成要件を充足するものではない。
(4) この点に関し、原告は、もともとこのような離型機構における型と成型物との運動関係は相対的なものであつて、本件の場合でも、彎曲部内型と管継手のどちらを動かしどちらを静止させるかは本質的な相違ではなく、技術的には単なる設計上の問題にすぎない旨、したがつて、本件特許発明の(6)の構成要件も要するに彎曲部内型と管継手彎曲部との相対的な旋回運動により両者を隔離させる構成をクレームしたものと解すべきである旨主張している。
しかし、上記のような解釈は構成要件(6)のクレーム文言を無視したものというほかない(特許出願の願書に添付された明細書の用語は特に定義されない限り、その有する普通の意味で使用されていると解すべきである。特許法施行規則様式16の備考7・8参照)。原告の主張は、要するに(6)の要件でクレームされている離型機構を単に内型と管継手との相対的な運動関係の観点だけからみたものであつて、前記(1)で説示した(6)の要件の技術的意義をも無視した抽象論であるから、到底採用することができない。一般的にいつても、具体的な装置において2物体を離隔させる方法としていずれを静止させいずれを移動させるかはその構成の全体に対し技術上種々の異なつた影響を与えるであろうことは容易に推認されるところである。現に本件においても、該離型機構を「引き抜き手段」とするか「叩き出し方法」とするかによつて具体的な技術上の要請や作用効果も異なつてくること被告主張のとおりである(事実欄第4被告の主張(2)参照)。
(5) もつとも、原告が上記のような主張をするについては一部首肯できなくはない点も存する。けだし、いまイ号装置を本件特許発明に照らして全体的に観察すると、それは(6)'の構成を除き他の構成部分においてすべて本件特許発明の構成要件を具備しており、しかもそれが故に、本件特許発明の最大の作用効果(従来一体であつた彎曲部と接続部との内型を別個の内型にすることにより管継手成形後にその接続部内側を切削加工する手数を省きうるという効果-従来技術につき公報第1、第2図参照)と同一の効果も亨受しているからである(上記作用効果同一の点は当事者間に争いがない。)。しかし、同一作用効果を奏する装置は1つに限らないことは見安い道理であつて、イ号装置も(6)'の構成の点において本件特許発明と別異のものでありながら上記の作用効果については同一の効果を奏しているにすぎないと解される。また、イ号装置は(6)'の構成の故に本件特許発明(の構成要件(6))にない技術効果を奏しうることもすでに述べたとおりである。これを要するに、前記のような重要な作用効果同一点が存するからといつて、もともと本件特許発明の構成に欠くことのできない事項としてクレームされたはずの(6)の構成要件を無視または軽視することはできないわけである(特許法36条5項)。
(6) してみると、イ号装置は、その構成(6)'が本件特許発明の構成要件(6)を充足していないがゆえに全体としては本件特許発明の技術範囲に属さないといわなければならない。
3 はたしてそうだとすれば、被告がイ号装置をを使用することはなんら原告の本件特許権を侵害するものではない。
4 よつて、本件特許権侵害を前提とする原告の本訴請求はその余の点の判断に及ぶまでもなく、すべて失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(畑郁夫 上野茂 中田忠男)
<以下省略>